蒼の光 × 紫の翼【完】
「……あのな、コートが男物でよかったってどういうことだかわかっているのか?」
「重々承知しています……」
「俺のコートを間違えて着て行くとかバカすぎるだろ。おまえはバカだ」
「重々承知しています……」
「それで、そのたまごどうする気だ?何がかえるかわからないんだよな?」
「重々承知して……じゃなくて、もちろん育てますよ!何がかえったとしても」
「どう考えたって怪しいだろ。模様からして怪しい」
「え?模様?」
「おまえ、眼鏡外して見てみろ」
わたしは小屋に帰りたまごについてを話した。
コートがぶかぶかなことに気づかず飛び出したことに気がついたのは、ケヴィさんに指摘された後。
男物でよかったって思ったけど、よく考えればケヴィさんのでした……
そして、このたまごに模様があると判明して、わたしは色つきの眼鏡を外した。
「あ、本当ですね。眼鏡の色と同化して気づきませんでした」
たまごは白いとばかりに思っていたが、実は淡い紫色の模様が描かれていた。
その模様は、レースがひらひらとたなびいたままたまごにぐるぐると巻き付いているような模様。
……わかるだろうか?
よく、ウエディングドレスの裾から腰のあたりまでぐるぐるとレースがついているような感じ。
つまり、変なうねうねひらひらとした淡い紫色の太めの模様が白いたまごにあるんです。
「模様があるたまごなんて、うずらのたまごしか見たことないですよ」
「変な模様だな。いったい何が生まれるんだか……」
「誰がなんと言おうと、わたしはこのたまごを無事にかえさせます」
「……そのたまご、誰にも見せない方がいいかもな」
「え、どうしてですか?」
「誰かに食われても知らないからな」
「…………」
いやーーー!!!それだけはやめてー!
誰かの目玉焼きになってしまったら……
想像したくない。
わたしは一気に血の気が引いた。コナーたちが助けを求めてくれたのに、それを水の泡にしてしまうなんてまっぴらごめんだ。
「うう……」
わたしは頭を抱えた。
「まあ、せいぜい見つからないように気を付けるんだな。俺から見ても、そのたまごは鳥ではないから、肌身離さず持っていた方がいいぞ。
変なのが生まれて大騒ぎになってほしくないからな」
「わ、わかってますよ!ちゃんとお世話しますから」
「今言ったからな?撤回無しだぞ」
「……はい」
……なんだかケヴィさんはこのたまごを歓迎していない様子。まあ、無理もない。親がわからないのだから。
「そのたまごからは声は聞こえないのか?」
わたしはその言葉にかぶりを振った。
「いいえ全く。まだ身体の構成ができていないんだと思います」
「じゃあ、まだそんなに急には生まれなさそうだな」
「はい。そうなりますね」
そこで話が途切れたとき、ニックさんが小屋の中に飛び込んで来た。
「わあっ……とと」
わたしは急いで眼鏡をかけた。幸い、息切れでそれどころではなかったみたいで、気づかれていないようだった。
「どうしたんだ?」
「ケヴィ…さんと、コナー…呼ばれて…ます」
「誰にですか?」
「はあ…アルバートさん…に…なにか、急ぎの…用事があるみたいで…はあ…」
「なんだ?何も聞いていないが。ニックご苦労。ここで少しの間見張りを代わってくれ」
「りょ、了解ですぅ~……」
ニックさんはその緑色の瞳を瞑って、へなへなと椅子に座り込んでしまった。
小屋からここまで意外と距離がある。それに雪の上を走って来たのだろう。そのツラさはさっき経験済みだ。
「よし、行くか。今度はコート間違えるなよ」
「間違えませんよ!早く行きましょう!」
「そんなに怒ることはないだろう……」
何度も何度も同じことを言われればそれはイライラしますよ!それにまだ生理中なんです!
「ん?そうか、おまえまだ生理「だからなんでそんなにデリカシーのデの字もないんですか!」
羊の見張り用の小屋から出て数秒後、ケヴィさんが言ってほしくないことを言ってきたため言葉を遮った。
生理中は情緒不安定なんですから、そんなに逆撫でするようなこと言わないでください!普段はこんなに怒りっぽくないんですから!
「悪い……」
「わかればいいんです、わかれば」
「わかったから、このポケットに入っているたまごを移してくれ……変なゴツゴツした感触が気持ち悪い……」
「あ、すみません。つい元のところに……って思って、そこに入れてしまいました……
確かに、ゴツゴツとして変な感じがしますね……」
「気づかなかったのかよ……」
「…………」
そして、あのことを聞く時間が近づいていた。