蒼の光 × 紫の翼【完】
「ごめん!いきなり呼び出して!仕事の方は大丈夫?」
「まあな」
「それで、急ぎの用事ってなんですか?」
「それね、ここだと話しづらいから場所変えるよ」
アルさんは小屋の中の椅子に座って待っていた。
しかし、そこでは話しづらいらしく、小屋の外へと出て、木がわりと生えているところへと場所を移した。
「で、なんだ」
「この間街で会ったときさ、僕は許可書のことは初耳だって言ったじゃん。そのことについて判明したことがあるんだ」
「だいたい予想はつく。スパイが紛れ込んでいたんだろう?」
「さすがケヴィ。じゃあ、どこの国だったかはわかるかい?」
「さあな。どれぐらい前からいたのかでも変わるし。まあ、そうとう前からいたんじゃ大問題だけどな」
「それがね、リチリアだったんだよ」
「じゃあ、つい最近ってことか」
「そうなるね」
……また勝手に話が進んでいる。
わたしは近くの切り株の上に積もっている雪を手で払って、そこに座った。
なんだか話が長くなると思ったからだ。
「そいつ、捕まえたのか?」
「うん、もちろん。拷問をして吐かせたから」
「……例のポーカーフェイスでか」
「そうだけど?」
「「…………」」
ぜっっっったいに怖い!あの顔で拷問とか堪えきれない!
「そいつはなんて吐いたんだ?」
「リチリアから来たってこと」
「他には?」
「他には吐こうとしなかったんだ。
そいつの役職は警備兵で、城を巡回する役割があったんだ。目的は?って聞いたら、ただの監視だって答えた。でも変なんだよね。巡回していたら、きっとカ……コナーに会っていたと思うんだ。
それで、他にもありそうだなって思って、奥の手を使っちゃった」
あえてわたしの偽名を使ったけど、でも別に本名言っても大丈夫だけどなぁ?
……でも、奥の手って、いったいなんだろう?
「奥の手って……まさか」
ケヴィさんの顔がさっと青ざめた。きっと経験済みなのだろう。
「うん、そのまさか。まあ、そのことは置いといて、ここからが肝心」
そのこと、が気になったわたしだけど、その言葉は慎んだ。話が逸れてしまうと思ったからだ。
わたしとケヴィさんは生唾を飲み込んだ。
「この城のどこかに、紫姫の指輪があるらしいんだ」
「は?指輪?なんだそりゃ」
ケヴィさんは気が抜けたような声を発したけれど、わたしはハッと気がついた。
「な、なんでスパイなんかが紫姫のことを知ってるんですか?!」
「さすがコナー君!君は気づいてくれると思っていたよ」
「……悪かったな、そこまで気がつかなくて」
わたしは思わず切り株から立って叫んでしまった。
スパイって確かに雇い主とは繋がってはいる。けれど、そう簡単には事の真相は明かされないはずだ。
紫姫と言わず、ある指輪と言えばすむはずなのだから。
「僕も指輪は知らなくてね。カイルなら何か知っているかもって思って聞いてみたんだけど、彼も知らなかったんだ。
スパイにも聞いたんだけど、鼻で笑われてシカトされてしまったよ。
でも、お仕置きをしておいたから吐いてもらったけど」
「お仕置き……」
またケヴィさんは顔を青くさせた。奥の手と同様、お仕置きも経験済みのようだ。
……それに今、アルさんはすこぶる機嫌が悪い。あの黒い顔で微笑んでいて、しかもおでこに怒りマークが出そうなくらい、片眉がひきつっている。
「その結果、有力な情報を入手、というか信じられない情報を聞いちゃったんだ」
「信じられない情報ですか?」
「そう。僕も最初は耳を疑ったけど、言った後にずっと死にたいって呟いていたから本当だと思うよ」
「「…………」」
いったいどんな拷問をしたんだろう。気になるけど知りたくない……
「それで、その情報っていうのは……」
ちょっと、アルさん!溜めないでください!気になって仕方ないんですけど!
わたしたちは、ずずずっと無意識にアルさんに近づいていた。
そんなわたしたちにアルさんは手招きをして、もっと近づけさせた。
そして、内緒話をするみたいに口に手をあて誰にも聞こえないように囁いた。
「……リチリアに紫姫が現れたんだって!」
「「はあーーーーー!!!!!!!」」
わたしとケヴィさんは同時に叫んでしまった。近くの木に積もっていた雪がドサッと音をたてて落ちるくらいの大音量で。
アルさんはわたしたちの反応を予想していたのか、両耳に指を突っ込んでいる。
……そして、わたしたちはかなり動揺して、話が遅々として進まないのであった。