蒼の光 × 紫の翼【完】



「この国は?」

「シヴィック」

「では、こちらは?」

「パルス」

「んじゃ首都言ってみろ」

「……アーリー。
てかなんでルーニー君も質問するのさ」



ただいま国名あてクイズをしている。


なんとかカイルさんとダンスを踊れたわたし。けれどほとんどカイルさんにリードされてやっと、って感じだから、油断はできない。

本番ではドレスを着るし、帽子は被るし、ヒールのある靴を履くからきっとカイルさんの足手まといになる。


……それだけは避けたい。




「あ?今は暇なんだよ。付き合ってやってる分ありがたく思えよ」

「なにその上からな言葉」

「それにひょいひょい答えてくれるからおもしれぇんだよなこっちとしては。おまえホントは頭良かったのな」

「……ひどいんですけど。ホントはとか」

「ではカノン様、この国は?」

「……リチリア」




わたしはホントは頭がいいそうです。ホントは。

まあ、物覚えがいいなとは自覚していたけど、改めて人に言われても変な感じ。


それになぜかこの世界の字はスラスラと読めた。少し教えてもらっただけでだいたいわかってしまった。


……なんでだろう?




「リチリアの王の名前は?」

「ラセス・デ・ウォーカー」

「髪と瞳の色あててみろ」

「髪は黒で瞳は赤」

「歳は?」

「22歳。ていうか、22歳多くない?黄金期なの?ケヴィさんとカイルさんもアルさんも22歳じゃん」

「さあな。たまたまだろ」

「そうかなぁ?偶然過ぎない?」

「では、なぜそのように若くして王になったのか?」

「前王が天に召されたから」

「……おまえ、もっと別な言い方ねぇのかよ」

「だって、思いつかなかったんだもん。なんか、病で死んじゃったんだよね?」

「ああ」




そして、やむなく王位についた。

でもそれは最近のことらしい。ラセス様がどんな人なのかはぜんぜん知らない。今は国のために手段を選ばず、血眼になって復興に精を出していることぐらいしか。


わたしはだんだんなんだか飽きてきてしまって、机をペンでトントンと叩いた。

それはわたしの癖らしい。リリーちゃんに言われて初めて気がついた。




「そろそろ限界ですか?」

「うん。いくら筋肉痛を治してもらったからって、疲労はなくならないし」

「明日は本番ですから、粗相のないようにしないといけませんよ?」

「わかってるよー」

「……その間延びした返事じゃ心配だな」

「わかりました!任せてください!」




明日は本番なんだ。本当に粗相のないようにしないと。あと、うっかり口を滑らせちゃうとか。

あんまり話さないようにはするけど、最低限の挨拶はしないとね。

ドレスの裾を軽く摘まんで会釈とか。

でも良かったよ。ヨーロッパみたいに頬にキスとかなくて。

あれは真似できないね、日本人には。




「さて、講習会はこれでお開きにいたします。お疲れ様でした」

「リリーちゃんもお疲れ様!付き合ってくれてありがとう」

「いえいえ、進んで立候補したんですよ。カノン様のお役に立ちたくて」



そう言って、リリーちゃんはふわりと笑った。


……やっぱりかわいいなぁリリーちゃん。癒しだよ癒し。勉強なんてしたくなかったけど、リリーちゃんが先生なら毎日来るよ。




「……じゃあ、またな。健闘を祈るぜ」

「うん。ルーニー君もありがとう」

「では、失礼します」




二人は部屋から出て行った。

この部屋は特別な部屋みたいで、許された者しか入って来られないんだってさ。

だからわたしは眼鏡を堂々と外している。



わたしはおもむろにズボンのポケットを探ると、たまごを取り出した。

日に日に成長しているのかはわからないけれどたまに、あれっ、動いたかな?と布越しに感じることがある。

でもそんなに早くにかえるとは思えない。

ニワトリの卵だってだいたい3週間ぐらいだって言うし。


でも今日はその変化が見て取れた。



「なに、この模様……」



あの変なうねうねとした模様。その模様が、模様ではなく絵になっていた。


龍が天に昇っていくような絵。


うねうねの部分は鱗やひれのような感じになっていて、ちゃんと手足もある。

口を開けて天に昇っていく龍。


確かケヴィさんは龍は神聖な生き物だって言っていた。もしかして、その龍のたまごなの?

でもこんなに小さいのに?

でもありえるかもしれない。コナーたちがあんなに焦っていたのだ。

でもでも、本当に龍だったら大騒ぎになっちゃうよ。



わたしがでもを頭の中で堂々巡りさせていると、ゴロッという音がした。


……まさか。



机の上に置いたたまごがひとりでに動いたのだ。さっきと位置が変わっている。

まさに怪奇現象。


また目をはなしてみると、ゴロッという音が。

チラッと視線を戻すと、ピタッと止まる。


……だるまさんが転んだかよ。


このたまごさんには遊び心があるらしい。

でもとうとう我慢できなくなったのか、今度はコロコロと無造作に転がり出した。

無理もない、たまごの形って特殊だから。



「ぎゃー!そっち行ったら落ちちゃうよ」



わたしが机から落ちそうになったたまごに咄嗟にそう叫ぶと、たまごはピタッと止まった。


……あれ?もしかして聞こえてる?



そう思ったのもつかの間、またゴロンゴロンと転がり始めた。


そう、ゴロンゴロン。今まで横向きに転がっていたのに、今度はなんと縦向きに転がりだしたのだ。


……いったい何がしたいの?


あっちへゴロンゴロン、こっちへゴロンゴロン。


わたしが半ば呆れ顔で眺めていると、しばらくしてたまごがまたピタッと止まった。

ええ?とわたしは目を丸くしてしまった。


だってたまごが直立で止まったんだよ?たまごって普通直立で立てるの無理だって聞いてるんだけど。


……ホント不思議。



わたしは頬杖をついてしばらく眺めていたけど、たまごに突然ピシッとヒビが入った。


お、やっと誕生の瞬間か?



わたしは頬杖をやめて、食い入るようにたまごを見つめた。



どんな龍なんだろう。それに色は?飛べるのかな?火は吹けるのかな?話せるかな?



わたしがワクワクしつつも固唾を飲んで見守っていると、とうとうたまごにさらにヒビが入った。



……ワクワク、ドキドキ。



すると、突然パンッと破裂音がして、たまごの殻が吹き飛んだ。

わたしは咄嗟に両手で顔を覆った。



……どれぐらい時間が経っただろうか。


恐る恐る指の隙間からたまごがあったところを盗み見ると……

あれ、何もいない。


わたしは手をどかして、きょろきょろと辺りを見回した。


あれ?と思ってなんとなく上を見上げると。


いた。やつがいた。


『にゃー』



……にゃー?



『にゃにゃにゃにゃー!』



なんということでしょう、そこには紫色をしたちっさい龍がにゃーにゃーと言いながら飛び回っているではありませんか。


……いや待て待て待て待て待て!!!


ビフォーアフターの差が激しすぎる!



ゴロゴロと変なふうに転がっていたたまごが、こんなにゃーにゃー変な鳴き声を発しながら飛び回る龍に大変身したのか?



わたしがボケーッと眺めていると、龍はわたしの前に舞い降りた。


……よく見たらかわいいかも。


くりくりのまんまるな黒い目。

紫と言ってもそんなに濃くない色。

牙は八重歯っぽくて逆にかわいい。

尻尾がちろちろと先端だけ動いている。

足はがっちりとしているけど、手は小さい。

そうだ、ちっさいティラノに翼がついた感じ。



そんな龍がわたしを見つめている。


「かわいいー……」


とわたしが目をハートにして指で触ろうとしたら、その指をあろうことかカプッと咬まれた。

でも、軽ーく。そして舐められる。

なんだかくすぐったい。






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