蒼の光 × 紫の翼【完】



その布には絵が描かれていた。そして、その布一面に物語が記されているようでもあった。



左から順々に見ていこう。


左には倒れた髪の長い女性とひとりの男性。

そして、二人が暮らしている様子。


少し右に視線をずらすと、美しくなった女性が3頭のうちの1頭の狼に跨がり、男性を見下ろす様子。そして、お城の窓から空を見上げている。その瞳はやはり紫。

リチリアの国王みたいな人と群衆の前に出ている女性。紫の瞳が印象的に描かれている。

そして、1匹の紫色の小さな龍に微笑んでいる顔がドアップの絵。その龍は女性の手のひらに舞い降りるちょうどその時。


真ん中ぐらいまで来ると、場面は一変。

街は火の海で、逃げ惑う人々。満月がでかでかと描かれていて、不気味な明るい夜をかもし出している。

やがて朝になり、死体が転がる街。

そして、さっきの王と男性が向かい合って対峙している様子。

でも、王は負けた。力には剣では勝てなかった。


肩膝を立て上を見上げる男性。そこには浮かんだ島が城の上にあった。

森があり山があり、滝まで見られる島。

地面は剥き出しで、中央には大きな建物がある。

建物は細く、天を貫かんばかりに高い。


その島の真下から光が放たれていて、男性の前にあの女性の幻影が映しだされる。

その女性は微笑をしながら、紫の瞳から涙を流していた。漆黒の長い髪をたなびかせて。


やがて、その島からまばゆい光が人々を照らす。死体も男性をも。

街全体を覆う光。そして、立ち上がる人々。

しかし、力を持った人々は、立ち上がることはなかった。


物語は終わりに近づき、男性は牢屋に入れられた。

島はもうどこにも描かれていなかった。女性も。


男性は断頭台に寝かされ、処刑される寸前で絵は停止していた。

そして、布の端には赤、青、緑、オレンジ、黒の瞳をもった子供たちが笑っていた。

そこで物語は終了。



……頭から聞いた話そのまんまだな。一点を除いては。




「確かに、この子がいますね」



わたしは、ポケットから飛び出してすいすいと空中を飛んでいるティノを見上げた。




「同じやつかはわからんがな」



カイルさんもわたしと同じようにティノを見上げた。




「でも、この絵に描かれている龍に間違いないね」



アルさんも見上げる。



ティノはそんなわたしたちが不思議だったのだろうか、わたしの肩に舞い降りてきて、にゃーと鳴いた。



「……なんでにゃーなんだ?」

「知りません。にゃーとしかわたしにも聞こえませんし」

「……変なの」



おいおい、龍って神聖な生き物なんじゃないの?変なの、なんて……



「……さて、戻して来るよこれ。もう確認できたし」

「ああ。頼んだ」

「了解」



アルさんによって巻かれ始めた布。

それを眺めていたわたしだが、ある衝撃的なものを見つけてしまい、アルさんの腕を止めた。

本当は布をバンッと叩いて止めたかったけれど、手袋をしていなかったわたしは踏みとどまって冷静に対処した。



「え、どうしたの?カノン」



アルさんが驚いたような声を発してビクついた。



「もう一度、広げてください。右端だけでいいので」



アルさんもカイルさんも怪訝そうな表情をしたけど、アルさんは何も言わずにまた少し広げてくれた。



「や、やっぱり……でも、どうして?」




わたしが見つめたその一点には……








漢字で『杉崎』と書かれていたのだ。



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