蒼の光 × 紫の翼【完】
ダンスホールは静寂に包まれた。
紫姫の真実。
彼女の謎が、明かされた。
彼女は……
哀れなる姫。囚われの姫だった。
「そして、さらに月日は流れ紫姫も代を重ね今に至る。紫姫になれる条件は、力が強大であること、もうひとつは異世界から戻って来たこと」
……まさにそれはわたし。それもわたし。
「紫姫には守護龍がついている。彼がそうだ」
彼女はそう言うと、手のひらを広げて、腕を横に伸ばした。
すると、そこに一匹の紫色の龍が舞い降りた。
「ティノ……」
わたしは思わず呟いた。その龍はまさしくティノだ。しかし、わたしは胸が詰まった。
ティノからは、悲しみの感情が感じられたからだ。
嫌々彼女に従っている。でも、逆らえばわたしに影響がでてしまう。
ティノはその小さな身体で大きすぎる負荷を背負っているようだった。
「この龍は紫姫の証。我は正真正銘の紫姫。しかし、この中に偽物が混じっている」
辺りがざわめきだした。
……いよいよ、か。
わたしはカイルさんを見上げた。カイルさんもまた、わたしを見つめる。
わたしは眼鏡を取った。帽子も取った。
さあ、来い!
「とうとう姿を現したか、偽物よ」
「偽物とは人聞きの悪い。なぜあなたはそう言いきれるのですか?」
わたしにスポットライトが当てられた。寸分違わずに。
最初からセットしてあったとしか思えない。
わたしの姿を見て、さらにどよめきが増した。
それもそうだろう。ダンスの盛り上げた本人、そして、カイルさんの連れなのだから。
……カイルさんの両親も、シルヴィもわたし
見て驚いているだろうか。
「なぜそう言いきれるのかだと?笑わせる。我が紫姫である以上、二人はいらぬよ」
彼女は鼻で笑ってわたしを見下した。その整ったわたしに似た顔で。
「紫姫が二人いてはいけないという掟でもあるのですか?」
「紫姫は古来よりひとり。二人もいらぬ。おまえはいらぬ存在なのだ」
「あなたが偽物だということもあり得るはずですが」
「わたしは本物だ。証拠に、守護龍が我を選んでいる。おまえではない」
……なるほど。ティノはそんなにも重要な地位にいるのか。ティノは紫姫の象徴的な存在であり、絶対的な存在。
ティノが彼女を裏切れば、彼女の怒りの矛先はわたしに向けられる。
それを恐れてティノはわたしの元から去ったのだ。
「その守護龍をたまごからかえさせたのは誰だかあなたは知っているの?」
「ふん、そんなことがどうした」
「かえさせたのはこのわたし。紛れもなくわたしよ!
ティノ!おいで。わたしは大丈夫だから。そんなやつにわたしは負けないから」
『にゃ~……』
ティノの苦しみの鳴き声。迷っているようだ。
「あなたの親は誰?わたしはそんな親孝行は望んでいないわよ?」
『にゃ~……にゃ。にゃにゃにゃにゃ!』
ティノが反応しつつある。あと少しだ。おまえはそこにいるべきじゃない!
「あなたが本物だと思う紫姫はどっち?よく考えて?」
ティノは飛び立つと、旋回し始めた。
「おのれ、偽物め!守護龍よ、我を選べ!そいつはおまえを騙している!本来は我なのだ!番狂わせをするな!」
本性を現しつつある彼女。焦りすぎだっつうの。ダンスだったら即失格だね。
ティノは、わたしを選んでくれた。お気に入りの右肩に止まる。
「そう、それでいいからね。正しい親孝行をしてくれて嬉しいよ」
『にゃー!』
ティノは嬉しそうにとぐろを巻く。
「……おのれ!それは宣戦布告と見なすぞ!おまえの国がどうなっても良いのか?」
「……ええ」
「ハッ!馬鹿者めが!おまえの国が火の海と化するのを指をくわえて見ているがいい!
……こちらには兵器があるのだからな」
彼女は憤慨したあと、ニタリと笑って壇上を後にした。
「……カイル殿」
彼女が去ったあと、リチリアの現王がスポットライトの元に現れた。
「……なんだ」
隣から低い声が響く。低いけれど、わたしには安心できる声。
「おまえたちの犯した罪。俺たちの手で成敗してくれる」
「望むところだ。受けて立とう」
「5日後だ。それまで歯を食い縛りもがき足掻くがいい」
「それはこちらの台詞だ。そっくりそのまま返してやる」
ラセスも壇上から消え去った。
「カイルさん……わたしのせいでごめんなさい。戦争になりますよね……これから」
「気にするな。こうなることはすでにわかっていた。
とっととここから出るぞ」
「……はい」
わたしたちは無数の視線を背中に感じながら、リチリアを後にした。