蒼の光 × 紫の翼【完】
……あ、デジャ・ヴで見たなこれ。
雪が降ってて、白亜の城があって。
右手には、しわしわな手。
……なんで手袋してないんだろう?
わたしは冷静にそんなことを思ったけど、関係ないのに何考えてるんだろう……となんだか自己嫌悪に陥った。
「そろそろ戻るでの、カノン」
空を見上げていたわたし。何を思って見上げていたのかはわからない。
「まだ、ダメなの。かえっちゃダメなの。あしあとがきえるまで、ここでまってるの」
「ふぉっふぉっふぉっ……ちゃんとさよならはしたじゃろ?なにも足跡も見送る必要はない。明日も来るでのぉ」
その明日は、わたしにはやってこない。
やってくるのは、わたしのいないこの世界。
本来の時間の流れを取り戻す。いらない歯車は取り除かれるんだ。
「ちがうの。もうあえないの。わたしはいかなくちゃいけないの。だから、ぜんぶわすれるの。わたしのことも、あそんだことも」
「何を申しておるのじゃ?」
すべてを忘れ、わたしは抹消される。
そうすれば、わたしの存在はいらないものになる。
この世界にいてはいけない存在なのだから……
わたしがこの世界にとどまれば、番狂わせが起こる。紫姫の、番狂わせが……
「わたしはこのせかいにいてはいけないそんざいなの。またかえってくるけど、またあってしまったらはじめましてだよ?それまでいきていてね?」
「カノン……何を申して……カノン?カノンとは誰じゃ?なぜわしはここにおる?はて?……」
ここでわたしはこの世界から消された。
よく見ると、頭の首にはチェーンが見える。いつの日か頭に預けたのだろう。
……ああ、だんだん思い出してきた……
わたしはこのとき、雲に隠れて見えない龍の星屑に願ったんだ……
『みんなにまた、あえますように』
その願いは叶った。叶えられた。
本来ならもっと時代が流れ、頭はもちろん、カイルさんたちもとうに死んでしまっている時代に戻って来るはずだった。
しかし、わたしは向こうの世界の時間の流れはそのままに、この世界に戻って来た。
これは紫姫の番狂わせ。
紫姫が二人も同じ時を刻まないように、異世界へと送り被らないようにする。
けれど、わたしが戻って来たことによって、リチリアにいる紫姫は地位を落とされた。
新しい姫が跡を継いだのだ。
それはわたし。杉崎夏音。
そして、地位を落とされた紫姫とは……
わたしの本当の母親だ。