蒼の光 × 紫の翼【完】
幻影の迷宮
「いきなりボス戦はキツくない?」
わたしは今母親と正面から対峙している。
眼下には炎上する街並み。多分センタルだろう。
「わざわざ我が迎えに行ったのだ。感謝してほしいものだ」
「感謝なんかしないよ!いくら実のだって言ったって、子供を束縛する権利はないんだから!虐待だから!」
「……我ら紫族は迫害されていたのだぞ、よくそんなふざけたことを言えるものだな」
「ふざけてるのはどっちよ!宣戦布告をしたのはあなたの方じゃないのよ!」
「ギャーギャーうるさいなおまえは。成敗してくれる!」
目を覚ましたとたんに蹴られて呻いたわたしだけれど、なんとか距離を取ってさっきの会話をしていた。
親子と言っても犬猿の仲であいまみえることはなかった。
だって育てられた覚えないし。反抗期だもんねーだ!
この空間には見渡す限り誰もいない。操縦席みたいなのがあるけど、彼女からは座る気配はしない。
360度映像が絶えず流れている。
わたしたちはそんな変な空間に立っていた。
フリードは島の中の塔だって言っていた。きっとここは島の中枢部。ここを壊せば島は止まる。
……けれど、装置ってどういう意味なんだろう?
わたしは彼女から放たれる、サイコパワーみたいな鋭い気の塊を避けながらふと考えた。
紫姫ってこんなことができるんだ。じゃあわたしにも何かできるかも。
……うーん、壁を作ることはできないかな。
わたしは身体にサイコパワーが直撃するのを覚悟で両手のひらを足元に当てた。
見えない床ができていくのを感じる。
「これで死ね!」
わたしは、壁!早く出てよ!このままじゃホントに死んじゃうから!とひたすら頼んだ。
……なんだか始まりからして緊張感のない戦闘シーンだけど、生憎わたしには実況する能力は持ち合わせていない。
バチーーーーン!!!
見えない刃が見えない壁にぶつかる音がした。
「やったね!望めば何でもできるのかな?」
わたしは調子に乗って、舌打ちをした彼女に向かって両手のひらを向けた。
そして、そこにパワーを集める。
「いっけぇぇぇぇ!!!」
まさにナントカ波だ。鋭い光が彼女に襲いかかる。
「我が紫姫だ!」
彼女もまた、壁を作って防いだ。
まだこれだけのことしかやっていないのに、もう息があがってきた。彼女も少しあがっている。
「ねえ、ひとつ聞くけど、わたしと異世界で、暮らしてた、女の人って、誰?」
「……我の、実の妹だ」
「じゃあ、カノンっていう、名前を、つけたのは?」
「そいつだ」
「……」
「ちなみに、おまえの、父親は、いない」
「……」
「我らは、常に生け贄を、捧げてきた。紫姫を異世界へ飛ばすには、父親の命を、捧げることになっている」
「……」
「おまえに、家族はいないんだ!」
「……聞いてもいないことをどうも。意外とおしゃべりなんだね」
「ハッ!そんなバカげたことを言っていられるのも今のうちだ」
またまだ聞きたいことはある。
どうして誰もいないのか、なぜオーロラ石の掘れるポイントを知っていたのか……
疑問はたくさんあるけれど、敵は教えてはくれないだろう。
「おまえの今の力は仮だ。その指輪の力を使って発動させている。そのうち指輪は力を失い壊れ、お前は負ける」
「そんなのやってみなくちゃわからないわよ!」
「やらなくとも結末は同じだ!」
また見えない刀が風を切る音があちらこちらから聞こえる。どうやらそれらはわたしの周りをぐるぐると回っているようだ。
「見えないのがなんとかできれば……」
心の目、とかないかな?
心で感じとる、みたいなことができればいいのに……
そうこう考えていたわたしだけど、それに気をとられすぎた。
「ああっ!!!……」
音がしたからよろけながらかわしたけれど、刀はわたしの肩、足、脇腹を掠めた。
「ふん、まがいなりにも紫姫だな。その程度の傷で済むとは」
確かに、脇腹を切られたけれどそこまで血は出ていない。肩や足も服に少し血が滲む程度だ。
「生憎、もともと傷の治りは早いんでね」
「なら、これはどうだ?」
彼女はそう言うと、指を一本立てて回し始めた。
なんだ?とわたしが思ったのもつかの間、鋭利にキラリと光るリングがそこに現れた。
わ、輪投げだ輪投げ!殺人リングじゃん!天使のリングよりも残酷なんですけど!
「これを避けられるとでも思っているのか?甘いな。これは回りながら大きくなる代物でね。便利だと思わないか?」
「変幻自在なリングね。そりゃ、ヤバいかも……」
「お遊びもここまでだ、もっとできるやつかと思っていたが、とんだ出来損ないだ。おまえには消えてもらう。この世界からな!」
……いや、ホントにヤバいって。口は笑ってるのに目は笑ってないよ。憎悪の光が見えるよ。
ここで死ぬわけにはいかないのに。この島をぶっ壊して……そして……
……わたしって、どうしてこんなことしてるの?
なんのために?誰のため?わたしのため?フリードのため?
……なんだか、頭が混乱してきた……
「どうして……どうして……」
「……おまえ、記憶が混乱しているのか。それは好都合だ。この手で始末してやる。何も考えずに済むようにな」
あ、目の前にリングが飛んでくる。
これを避ける意味ってあるのかな。
わたしは死んだらどうなるのかな。元の世界に戻れるのかな。
それならいいや。また詩織や野島君に会えるんだ。お菓子をいっぱい食べて、高校生活を満喫するんだ。
そうだ、死ねば元に戻れるんだ。普通の女の子に戻れるんだ。
それなら、このリングにこの身を裂かれれば何もかも終わるじゃん。
いいね、それ。そうしようよ。死のうよ。
わたしが自暴自棄になって俯いたとき、チラリと見慣れた人が見えた。
わたしはしゃがみこむ。そして、リングが真横まで迫って来ていた。
「ちょっと邪魔なんだけど。消えてくれる?」
わたしが無機質な声で命令すると、そのリングはパッと消えた。
「な、なぜだ……なぜ消えた」
少し驚いているクソババアを無視して、わたしは眼下に夢中になった。
わたしがさっき見つけた人とは、ケヴィさんだった。