私の中のもう一人の“わたし” ~多重人格者の恋~
「おまえは誰だ? コイツの仲間か?」


裕美がやはり低い声で俺にそう言った。


「裕美……俺が誰かもわからないのか?」

「オレは裕美じゃない。裕美の兄だ」

「な、なに~?」


裕美はとんでもない事を言ったが、冗談で言ってるとも思えない。


……ああ、そうか。こいつは裕美から解離した別の人格なのだな。“裕美ちゃん”と統合して二重人格は治ったと思ったが、別の人格が生まれてしまったわけか……

ブラウスの前がはだけ、ピンクのブラが丸見えだが、男のこいつはそんな事は気にならないわけか。


裕美はよほど怖い思いをしたんだろうな。可哀相に……

俺は裕美の体を引き寄せ、その華奢な体を抱き締めた。


「ごめんよ。もっと早く来てやれなくて……」

「な、何なんだよ、おまえは……。気色悪いから放せ!」

「俺は裕美の彼氏だ。これからは裕美に怖い思いはさせないと誓うよ、お兄さん……」

「そ、そうか。そうしてくれ」


俺の腕の中で嫌がっていた裕美、いや裕美の兄貴だが、すぐに大人しくなったかと思うと、力が抜けてグッタリとした。疲れて眠ってしまったのだろう。

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