私の中のもう一人の“わたし” ~多重人格者の恋~
するとその時、裕美がむくっと体を起こすのが見えた。そして、
「もしかして私、無事?」
と呟く声がした。それはさっきまでの低い声とは違う、いつもの裕美の声であり、“オレ”ではなく“私”と言った。
「裕美か?」
裕美に歩み寄り、そう声を掛けると裕美は俺を振り向いた。
「剛史さん……!」
裕美は夢中で俺に抱きつき、俺はそんな彼女をしっかりと抱きとめた。
よかった。裕美に戻ってくれて……
「剛史さん、ありがとう」
「ん?」
「私を助けてくれて……」
やはり裕美は憶えていない、というか知らないらしい。自分から解離した別の人格の存在を……
「あ、ああ。無事で良かった」
裕美は俺に助けられたと思っているが、俺は敢えてそれを否定しない事にした。もちろん裕美の“兄貴”の事も言わないつもりだ。
その後、裕美が中3の時も今日と同じような経験をした事を聞いた。もちろん裕美自身は気付いていないが、その時も裕美を救ったのは裕美の別な人格、つまり裕美の“兄貴”だったのだ、と俺は思った。
「もしかして私、無事?」
と呟く声がした。それはさっきまでの低い声とは違う、いつもの裕美の声であり、“オレ”ではなく“私”と言った。
「裕美か?」
裕美に歩み寄り、そう声を掛けると裕美は俺を振り向いた。
「剛史さん……!」
裕美は夢中で俺に抱きつき、俺はそんな彼女をしっかりと抱きとめた。
よかった。裕美に戻ってくれて……
「剛史さん、ありがとう」
「ん?」
「私を助けてくれて……」
やはり裕美は憶えていない、というか知らないらしい。自分から解離した別の人格の存在を……
「あ、ああ。無事で良かった」
裕美は俺に助けられたと思っているが、俺は敢えてそれを否定しない事にした。もちろん裕美の“兄貴”の事も言わないつもりだ。
その後、裕美が中3の時も今日と同じような経験をした事を聞いた。もちろん裕美自身は気付いていないが、その時も裕美を救ったのは裕美の別な人格、つまり裕美の“兄貴”だったのだ、と俺は思った。