私の中のもう一人の“わたし” ~多重人格者の恋~
それから間もなくして岩崎さんの権限の復旧が終わったらしい。


「悪かったな、玉。お礼に今度飯を奢るからさ」

「ほんと? 楽しみにしてる……」


そう言って“玉ちゃん”改め薫さんは嬉しそうに微笑んだ。その顔と仕草はとても可愛くて、まるで……女の子みたいだ。


「あ、その時は裕美も一緒な?」


ちょっと、人前で親しげに言わないでくれる? 薫さんに誤解されちゃうじゃない。“ちゃん”が取れて呼び捨てになってるし。


でも、薫さんとお近づきになるチャンスかもしれないから、「はい」って私は返事をした。“わたし”がいう前に。


すると……


「こちらは、どなた?」


薫さんは微笑みから一転して怪訝な顔に変わり、私を正面からキッと睨んだ。


「総務の子さ。名前は小早川裕美さん。この子がいた方が話が早いかなと思って一緒に来てもらったんだ」

「じゃあ、今日が初対面?」

「そうだけど?」

「ふーん。よろしくね」

「あ、はい。よろしくお願いします」


薫さんって……本当に男?

見た目や声は間違いなく男だけど、表情や話し方はまるで女みたいだ。

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