私の中のもう一人の“わたし” ~多重人格者の恋~
岩崎さんを待たせちゃいけないから、と言ってもそれは“わたし”の考えだけども、私は定時と同時に席を立ち、周りの人に挨拶をした。


「あら、急いでるのね? デート?」


と言ったのは同期で同僚の真由美。


「ち、違うわよ」

つい嚙んでしまった。


「あやしいわねえ。今度じっくり聞かせてね?」

「違うって言ってるのに……」


ニコニコしながら私に手を振る真由美は、まるで私の言う事を信用してなさそうだ。本当にデートじゃないのにな。断じて……


まだ岩崎さんは来てないだろうと思ったら、既に彼はロビーにいて、長い脚を組んでソファーにゆったりと座っていた。絶対、定時前に上がってるよ、この人……


「お待たせしました」

「よお。早いな?」

「あなたこそ……」

「君を待たせちゃいけないから、定時前に上がったよ」


やっぱりね。開発部って、ずいぶん自由な職場なのね。それともこの人だけかな?

でもさすがにITセクションはそういうわけには行かないだろうから、薫さんはまだ来ていない。岩崎さんの隣に座るか、向かいに座るか私が迷っていたら、その前に彼はすくっと立ち上がった。

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