私の中のもう一人の“わたし” ~多重人格者の恋~
「行こうか?」

「え? 玉田さんがまだみたいですけど?」

「あいつは来ない。今日は俺達だけだけど、まずかったかな?」

「別にまずくはないですけど……」

「そうか。あいつがいると厄介だからさ……」


と言われても、一緒にって言ったのはあなたでしょ? 変なの!


『あの……』

何?

『今から“わたし"に主導権を渡してくれない? 会話と体の……』

そうね……。いいけど、私が嫌だなと思ったら待ったなしで割り込むから、そのつもりでね?

『うん。ありがとう』

ま、仕方ないわね。これは“わたし”の恋なのだから。


「裕美は食べ物の好き嫌いはあるのか?」


歩きながら岩崎さんは“わたし”にそう聞いた。一応は気を遣っているらしい。

“私達”に好き嫌いはいっぱいあるけど、“わたし”は何て答えるのかなあ、と思っていたら、事もあろうに、


「えっと……ありません」

と“わたし”は答えてしまった。


「そうか? そいつは助かるな」


ちょっと、なに格好つけてんのよ。あんたも私も好き嫌いだらけでしょうに……

不思議な事に、性格や異性の好みは違うけど、食べ物の好みは私と“わたし”は同じだ。同じ口に入るのだから、当然かなとも思うけど。


あっ。

私、なんか大変な事に気付いちゃったかも。体に入るモノって、何も食べ物だけじゃないわけで……


『もう、そんな事考えないでよ。恥かしいから……」


いやいや、恥ずかしがってる場合じゃないでしょ? どうすんのよ!?

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