私の中のもう一人の“わたし” ~多重人格者の恋~
“わたし”はマグロや海老や玉子やイカとか、あまり高くなさそうな物ばかり頼んで食べた。遠慮もあるけど、実際にそれらが好きなのだ。

私がふざけて言った大トロは実は苦手。もちろん私もだけど。貝類や青魚も苦手だから、食べられるネタはとても限られてしまう。

それでも“私達”は充分美味しく戴いた。やっぱり回転寿司とは全然違うわ。それにシャリが大きいから、すぐにお腹が一杯になっちゃった。


「ああ、美味しかった……」


大きくて重い湯飲みを両手で持ち、熱々のアガリ(お茶)を満足顔ですする“わたし”。


「もう終わりなのか?」

「はい、お腹いっぱいです」

「ずいぶん少食なんだなあ。俺はもう一つ食べるよ?」

「どうぞ、どうぞ」

「おやじさん、アワビある?」


あ、アワビ!?


「はい、ありますよ。生きのいいのが」

「裕美も食べないか?」

「と、とんでもないです」

「遠慮すんなって」

「いえいえ、遠慮じゃなくて、本当にお腹いっぱいですから……」

「そうか? じゃあ一つだけ」

「へい」


『アワビだなんて、相当高いだろうな。想像も出来ないわ……』

遠慮しないで頼んじゃえばよかったじゃん?

『何言ってるのよ。食べられないくせに』

そうなんだけどね。


それにしても岩崎さんって、豪胆と言うかなんて言うか……

大トロなんかも平気で食べてたし、金銭感覚がおかしいんじゃない?

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