私の中のもう一人の“わたし” ~多重人格者の恋~
っていうか……


「私はまだ“彼女”じゃありません」

「そんな事はないだろ? ね、裕美ちゃん?」

「は、はい……」


あんたね……。最近はどんどん割り込んで来るのね?

『だって、剛史さんが呼びかけてくれるから、お返事しないわけには行かないもん』


「という事だからさ、観念したら、裕美さん?」

「何が“裕美さん”よ!」



とか言っている内に、私のアパートの前まで来た。


「ここです」


私は階段の手前で立ち止まると、岩崎さんにそう告げた。就職と同時に上京し、住み始めたそのアパートは、ごく普通ではあるけれど、一人で住むには十分の広さだし、私は結構気に入っている。


「ふーん。周りは街灯で明るいし広いし、人通りは少なそうだがそんなに危険って事はなさそうだな?」

「でしょ? あまり心配する必要はないと思うのよね」

「いやいや、油断は禁物だよ。で、君の部屋はどこ?」

「え? まさか、中を調べるとか言わないでしょうね?」

「まさか。今日はしないよ」


「“今日は”?」

「いけねえ、口が滑った。あはは」

「もう……」


と私は口を尖らせつつも、屈託のない岩崎さんの笑顔に、ほんの少しだけどドキッとしてしまった。

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