私の中のもう一人の“わたし” ~多重人格者の恋~
私は同意なしに唇を奪われた事が悔しくて、岩崎さんをキッと睨んだ。ところが、


「裕美に文句を言われる筋合はないね」


岩崎さんは少しも悪ぶる事なくそう言った。むしろ顔に薄笑いを浮かべながら。


「ど、どういう意味?」

「だって、俺は“裕美ちゃん”にキスしたからさ。君じゃなくて」

「う……」


そう言われてしまうと、私には返す言葉が見つからない。


「裕美ちゃんが怒ってるなら謝るけど?」

「…………」


“わたし”はと言うと、ただ今思考停止中、らしい。


「じゃ、またな? 裕美」


と言われたけど、私は返事をしてあげなかった。すると岩崎さんはふっと笑い、


「怒った君も可愛いよ」


と言って私に背中を向けた。

私は彼の遠ざかる背中を呆然と見つめ、やはり思考は停止状態なのだった。

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