私の中のもう一人の“わたし” ~多重人格者の恋~
だって、その人の顔は薫さんそのものだったから。

私は考えるより先にドアをバタンと閉め、鍵をロックした。


「どうしたんですか、小早川さん? 開けてください。荷物はいいんですか?」


なんて声がドアの向こうから聞こえたけど、もちろん開けたりしない。あ、チェーンも掛けなくちゃ。

指が震えてガチャガチャ鳴らしながら、私はドアにチェーンを掛けた。


「開けろって言ってんだろ!」


ドアの向こうの薫さんの顔をした人物は、一転して声を荒げると、ドアをガンガンと叩きだした。

私は両手で耳を塞ぎ、後ずさりして玄関から離れた。


あ、窓を閉めなくちゃ!

ここは二階とはいえ、あの人が壁を這い上がって来ないとも限らない。あの人が恐ろしい形相で壁を這い上がる姿を想像したら、おぞましさで体がブルブルっと震えた。


念のため雨戸も閉め、私は畳の床にうずくまった。玄関からはもう何も音はしない。でも、あの人が諦めたかどうかはわからない。誰か、助けて……


私はテーブルの上から携帯を掴み上げると、震える指先でアドレス帳を開き、迷わず剛史さんの名前をタップした。

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