私の中のもう一人の“わたし” ~多重人格者の恋~
剛史さん、出て? 早く、お願い!


『もしもし?』

とても長く感じたけど、実際は数回のコールで剛史さんは携帯に出てくれたと思う。彼の低めの声が、こんなに素敵だなんて知らなかった。


「剛史さん……!」

『“裕美ちゃん”だね?』


私は“わたし”ではないのだけど、そんな事、今はどうでもいい。


「剛史さん、助けて……」

『えっ? どうした? 何があった!?』

「来たの」

『誰が?』

「それがわからないの。顔は玉田さんそっくりだけど、玉田さんじゃないと思う」

『ああ、くそっ。今はどんな状況?』

「ドアに鍵を掛けて、チェーンも掛けたわ。窓は雨戸も……」

『よし。で、ヤツは?』

「わからない。ドアを叩いて怒鳴るのはやめたけど、諦めたかどうかは……」

『わかった。すぐそっちへ行くよ』

「うん」

『俺が行くまで絶対にドアを開けるな。誰が来ても、絶対に。いいね?』

「うん、わかった。早く来て?」


剛史さんが来てくれると思ったら、スーッと気持ちが落ち着いていくのを私は感じていた。

< 54 / 137 >

この作品をシェア

pagetop