私の中のもう一人の“わたし” ~多重人格者の恋~
剛史はそう言って私を真っ直ぐに見つめた。その目は真剣そのもので、口をキリリと結んだ彼は、とても男らしくて頼もしいと私は思った。もちろん、素敵だとも……


「考えたんだけど、俺は今夜ここに泊まろうと思う。いいだろ?」

「そ、それは……」


思いもよらない剛史の申し出に、私はついうろたえてしまった。


「変な事はしないから、心配しなくていい」

「そうじゃないの」


そういう心配はしなかった。剛史が私の弱みに付け込むような事をするとは思ってない。と言うより、もしそういう事になったとしても嫌じゃない、というのが本音なのだけど……


「ご迷惑じゃないかと……」

「迷惑? バカな事を言うなよ。ちっとも迷惑なんかじゃない。そもそも俺のせいなんだし」

「でも……あ、お仕事は大丈夫だったの? 残業だったんでしょ?」

「それは大丈夫。君から電話をもらった時、ちょうど区切りが付いたところだったんだ」

「そう? よかった……」

「じゃあ、今夜は泊まるよ。いいね?」

「はい。よろしくお願いします」

「よし。明日会社に行ったら、俺はすぐに玉田に会いに行く。そして奴を強制的に病院へ連れて行く。精神科のある大きな病院にね」

「あの人、大人しく言う事を聞くかしら。自分では自覚がないのでしょ?」

「おそらく抵抗するだろうけど、力づくでも連れて行くよ。もし揉めたら警察に連絡しようと思う」

「警察?」

「ああ。なるべくそれは避けたいけどね」


剛史さんって、なんて頼もしいんだろう。心の中の恐怖や不安が、すーっと消えて行くのを私は感じた。

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