サイコーに不機嫌なお姫様。
「翔汰もふっきってることだからツッチーもきっとそれだけで泣いたのかよって思うよ?」
思わないよ。なおの涙はいつだって人のために泣く。
結婚式の時も俺と喧嘩した時も仲直りした時も
「大丈夫だから言って?」
「……小5の夏休みにおじいちゃんの家に翔汰と遊びに行ったの。そこで小さな犬を見つけてさ」
犬……?
「翔汰とおじいちゃんの家の庭で牛乳あげたりパンあげたり世話してたの。リードもつけてないのに庭から離れないしかわいくて私大好きだったんだ」
今にも泣きだしそうななおの手を握る俺。
「でも夏休みも終わるから帰る日におじいちゃんは世話できないからって近所から聞いた情報で、二号団地で見かけたからそこに連れて行くって言ってさ……」
「うん……」
「その場所まで連れていって車からおろして食パン一枚あげて車に乗り込んで……置いていったの」
なおの目から涙が溢れてきた……
「後ろを振り返るとね、食パンを口にくわえて必死に私たちの車を追い掛けてくるんだよ。どんどん距離は離れていくのにいつまでもいつまでも……」