与太【完】





「ばいばい、直」




机の横にかけていたスクールバッグを乱雑に肩にかけ、直のそばから一歩離れる




ドアのところまで歩いて行って、直に手を振るため少し振り返れば、

「あ、待って春野」

相変わらずのゆったりした声に呼びとめられた。




首をかしげれば、私の隣までのんびり歩いてきて止まった彼は、春野、ともう一度私の名前を呼ぶ。




「なに?」


「手え出して」


「なんで?」


「いいからー」




なに?




不信感を抱きつつも、言われたとおりに手のひらを直に向けてしぶしぶ差し出せば、

「はいこれ、話に付き合ってくれたお礼」

そこに紙に包まれた、四角く茶色い砂糖の塊が一粒乗せられた。




「……キャラメル?」


「うん、こんな時間まで話、付き合わせちゃったから」


「……」


「気いつけて帰ってね」




キャラメルひとつで終わらせる。


私たちは一緒に帰らない。




手のひらに乗る軽い重みに眉を顰め、直、と呟きキャラメルをぎゅっと握りしめた。



もういっそ、全部言ってしまおうと。私が悪者で良い。


“別れて”ってお願いしよう。



< 3 / 9 >

この作品をシェア

pagetop