与太【完】
「ばいばい、直」
机の横にかけていたスクールバッグを乱雑に肩にかけ、直のそばから一歩離れる
ドアのところまで歩いて行って、直に手を振るため少し振り返れば、
「あ、待って春野」
相変わらずのゆったりした声に呼びとめられた。
首をかしげれば、私の隣までのんびり歩いてきて止まった彼は、春野、ともう一度私の名前を呼ぶ。
「なに?」
「手え出して」
「なんで?」
「いいからー」
なに?
不信感を抱きつつも、言われたとおりに手のひらを直に向けてしぶしぶ差し出せば、
「はいこれ、話に付き合ってくれたお礼」
そこに紙に包まれた、四角く茶色い砂糖の塊が一粒乗せられた。
「……キャラメル?」
「うん、こんな時間まで話、付き合わせちゃったから」
「……」
「気いつけて帰ってね」
キャラメルひとつで終わらせる。
私たちは一緒に帰らない。
手のひらに乗る軽い重みに眉を顰め、直、と呟きキャラメルをぎゅっと握りしめた。
もういっそ、全部言ってしまおうと。私が悪者で良い。
“別れて”ってお願いしよう。