与太【完】
「直」
呟くのではなく、今度は彼にきちんと届くように声をかけた。
ん? と私の大好きな笑顔で顔をあげた直は、首を傾げる。
「あのね……、直、」
“お願い、別れて”
言葉にすれば、たった二言。文字におこせば、たった6文字。
なのに出かかった短い言葉、正直な気持ちは、声に乗せられることなく
「ナオくんっ」
教室の扉を開ける大きな音と共に響いた、上ずった声に邪魔された。
「――あ、さくら」
直は、ふわふわの髪の毛をなびかせながら、小動物が如く自分の元まで小走りした彼女の名前を呼ぶとともに、嬉しそうに笑う。
大好きな彼女を見る優しい表情を目の当たりにしてしまった私は、急激に心が冷えていくのを感じた。
「ごめんねえ、委員会長引いちゃったの!」
「全然だよ」
「それに、先生に明日配るプリントまとめるの手伝ってくれってお願いされちゃってね! ……ナオくんが待ってくれてるから、断ればよかったのに……、遅くなっちゃってごめんね」
「さくらは優しいから。俺は平気だよ」
「ほんっとーに、ごめんね!」
しきりに謝る彼女と、大丈夫だとそれを宥める彼氏に、ぽつんと取り残された感満載の私。