与太【完】




二人を見てればもう、さっき喉元まで出かかっていたのが嘘かのように、“別れて”なんて言う勇気は消えてしまっていた。


――何これ、すごく居づらい。




手のひらのキャラメルを潰さない程度に拳を握って、

「ほんとに平気だったよ。待つの、春野も付き合ってくれたから」

二人に背を向けようとした瞬間、唐突に声をかけられる。




直の表情もさくらの表情のどちらも、背を向けているためにもちろん見えないけれど、二人とも同じような、ふわふわした笑顔で私を見ている気がした。


想い合ってる二人は、笑い方が似るのだろうか。




「そうなの? なっちゃんありがとう! ごめんね、2時間もかかっちゃって……!」




首だけで振り返れば、くりくりな大きな瞳をキラキラと輝かせ、形の良い眉はハの字に曲げ赤いぷっくりした唇で緩やかにカーブを描く彼女と目が合う。



別に私はさくらを待っていたわけじゃない。


あなたがそんなに申し訳なさそうにすることじゃない。


私は直といたかっただけ。


お礼を言われる筋合いは、ないよ。



< 5 / 9 >

この作品をシェア

pagetop