与太【完】
どろどろと溢れ出した不平は声にせずに、
「気にしないで、委員会、お疲れ様」
感じよく笑ってあげれば、
「あ、ありがとう……!」
なっちゃん優しい、と勘違いしてくれたさくらは嬉しそうに笑った。
――直が、私でなく、彼女を好きな理由がよくわかる。
素直で、正直で、優しくて、お人好しで、
絶対、私のように、“別れてほしい”なんて思わないから。
「あーあ、お腹空いちゃったあ」
「ハンバーガーでも食べて帰る?」
「うん! やったー、あ、あのね! 私ポテトの無料券持ってるよお」
「お、ナイスさくら」
楽しそうに笑って、これからの放課後を話す二人から、今度こそ顔をそらした。
「じゃあ私、帰るね」
さっきと同じ言葉を振り返らずに告げて、早足で教室の扉へ向かう。
直が私を呼びとめることは、もうしなかった。
代わりの、
「じゃあ、また明日ね、春野」
優しい声だけが、いやに耳に響く。