与太【完】




教室を出れば、寿命が近いのか、蛍光灯がチカチカ光って、廊下は少し薄暗く感じた。



――今日も、言えなかった。


“別れて”なんて言えるはずもなかった。



直の大好きなさくらと、私の大好きな彼の不幸なんか、言葉にできるはずがない。


好きだから、嫌われたくないから。直に。


涙が出そう、なんて可愛げあることは思わなかったけど、もやもやとしたものが心の中で渦巻いてはいた。


それが怒りなのか嫉妬なのか、悲しみや寂しさなのか、自分でさえもわからない。



ふと手のひらの中で、その存在を主張することなくじっと紙にくるまれたままいるキャラメルのことを思い出した。


直からもらったそれを無造作に紙から出してやり、茶色い砂糖の塊を口に含み溶かしていく。



甘ったるい。








――本当は、わかってたの。


別れて、なんて最低な言葉より、もっと違う気持ちを告げるべきだって。


その前に私は、直に言うべきだったのだ。



“ずっと好きだった”と。



四角かったキャラメルの角が、随分丸みを帯びた。


甘ったるい息を吐いて、のろのろと廊下を進む。




――私はきっと、明日も言えない。


“別れて”なんて、恋人同士の二人には。


“好き”なんて気持ちを告げることは。



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