羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
「天野田さんは、なにか倒した?」
「私は滅多に駆除はしない。
指令を出すことを最優先にしろと、部下にもよく言われているからね」
そう言われる理由も、わからないことはない。
天野田は誰が見たって聡明で、悪く言ってしまえば狡猾で、悪知恵を働かすのもお手のものだ。
また、呪法班に時たま参加するほど、妖しげな科学にも精通している。
それでも、優しげな風貌や、紳士的な気品あふれる振る舞い、気さくな話し方で人気がある。
余談だが、人気では酒童も負けてはいない。
周囲からは、
「モデルでも食っていけたんじゃない?」
と、ふたりして問いかけられるほどである。
「ふうん。囮とかはしないのか?」
「させてもらえないよ。
よっぽど戦況が悪かったり、人手不足じゃない限りね」
天野田が贅肉のない頬を押さえて、あからさまにため息をつく。
「司令官の役も、大変そうだな」
茨には、どの役割も大変そうに見えて仕方がないらしい。
「大変というなら、君もね?
昼は高校、夜は駆除に出かけなきゃだし」
いたわっているようでもあったが、なんだか怪しいほどに、天野田の眼が光っている。