羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》



 刹那、ずどん、と重ぐるしい銃声が響いたかと思うと、間も無く最後尾にいたボナコンが、甲高く馬の声でいなないた。

 朱尾が撃ったのだろう。

 銃撃に遭った猛牛は、短く悲鳴をあげたあとで、泡を食って卒倒した。

どうやら、仕留められたらしい。

 すぐ真横にあった電灯に飛び乗り、酒童は残りの2頭を見た。

見て、酒童はぎょっとした。

 飛びかかるまではいつも通りで、順調だった彼らだったが、突如、最後尾のボナコンの鳴き声に驚いたのか、列と歩調を崩した。

 そればかりでなく、混乱したと思しき1頭が、片方の仲間に突進したのである。

 その行動は、予想外だった。

 榊は運良く電灯に移れたが、彼よりも早く行動していた桃山は、手遅れだった。

眼前2頭がぶつかり合った衝撃を受け、桃山はビルの壁に叩きつけられた。


「桃山!」


 酒童は叫び、考える間もなく救助に向かった。

体を強く打ったらしく、立ち上がろうにも立ち上がれない様子でいる。


(どうしてだ)


 酒童は悪態をつく。

 こういった予想外の出来事も、呪法班ならば見抜けたはずである。

 ……なぜ、この未来が視えなかった?

 唇を噛んだが、今はそれを優先すべきではない。

 酒童は突進を繰り出した方のボナコンに狙いを定めた。

道路を駆け抜け、ビルの壁を思い切りかかとで踏み、ぴょんと飛ぶ。

2頭の中でも、興奮している方は厄介だ。

 酒童は素早く刀の背に手を置くと、ざっくり、とその肉を斬り下げた。

しかし、焦ったためか、完全に首を刎ねられなかった。

あと一歩というところだが、僅かな肉が、体と首をつなげている。

 しかし、


「けえっ」


 すかさずやってきた榊が、とどめに首を刎ね飛ばした。

 酒童は休まない。

榊が仕留めたのを確認し、残った1頭に矛先を向けようとしていた。

 だがその時、朱尾の声が空を裂いた。


「みんな伏せろ!」


 叫ばれて、榊も酒童も、蛙のような格好で地べたに伏せた。

ずどん、とまた銃声がすると、突進されて体勢を崩していたボナコンが、絶命して倒れこんだ。



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