羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》



(それにしても、なんでいきなり……)


 ボナコンが暴れ出したのだろう。

いや、普通に考えて、後ろで同胞の悲鳴が聞こえたからなのだろうが、また妙なタイミングで暴れ出したものだ。

 最後尾のボナコンが悲鳴と共に倒れた時から、数秒経った時に、中のボナコンは突進した。

悲鳴が上がってすぐなら納得がいくが、どうも腑に落ちない。

 酒童は突進した方のボナコンに歩み寄り、その身体の周りを、じろじろと眺め回した。


 すると。


「これは」


 と、酒童は瞠目した。

 例のボナコンの腰、左脚の付け根あたりに、5本の傷を見つけたからだ。

 しかもまだ新しい。

 その傷は、5本とも等間隔で並んでおり、尻からざっくりと切られているのをみると、何か鋭利なもので切り裂かれたのだとうかがえる。

忍者ものの時代劇を見ていると、たまに「手甲鉤(てっこうかぎ)」と呼ばれる鉄製のカギ爪を目にする。

それに似ているが、無論、忍者の仕業ではないことぐらい、酒童だって分かる。

 だとすれば、残る心当たりはひとつしかない。


(獣の爪痕か)


 ボナコンにつけられたそれは、形だけみれば、猫の引っ掻き傷のようでもあった。


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