羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》



2


 久々に使われた治療室で、桃山は半裸に剥かれ、強制的にベットに横たわらされていた。

そのすぐ傍には、当然のように榊がいて、外の廊下には朱尾がいる。

 酒童はといえば、さきほどからがさごそと盗人のように、医務室の棚を漁っている。


「じゃあ、失礼します……」


 治療室で桃山の処置を行ったのは、あの、呪法班の女班員、青木であった。

青木はかしこまりながら、恐る恐ると、赤く腫れた桃山の背中に湿布を貼る。

貼って、優しげな手つきでそこを撫でる。


「戦闘員の方々は滅多に怪我なんてしないのに……。
今日は、なにかあったんですか?」


 青木はどうやら、呪法班がボナコンの暴走を見抜けなかったのを知らないらしい。

この様子だと、たぶん予知をした班もその事態に気づいていないだろう。


「いや、なんか獲物が急に暴れ出したんで、ちょっと体勢を崩しちゃったんですよ、こいつ。
な?」


 ばちり、と元気良く榊に背を叩かれ、桃山は思わず、


「あいたっ」


 と、ベットの上で海老反りになった。


「それにしても、意外ですね。
呪法班の人って、みんな術でパパッと傷を治しちゃうイメージがあったんすけど」

「えっ……」


 榊の何気ない言葉を、青木は真剣に受け止めて、おろおろと曖昧な手つきで印を結び始めた。



 ええと、治癒に使う呪法の印は……。
 あー、でも、私にできるかな、これ……。
 術できる人はみんな班の方に出ずっぱりだし……。
 ああ、天野田さんとかでもいてくれたらなぁ。
 あの人ああいうの得意だし。


 軽いパニックにでもなったのか、ぶつぶつと独り言を漏らしながら、青木は印を結ぶ。

術に自信がないのだと見えた。

 さすがの榊もこれには狼狽した。


「いや、いいっすよ。
そこまでしてくれなくて……。
できるのかなー、なんて思っただけですから。はは……」


 榊は呪法班に、力量による仕事の違いがあることを存じていない。

 以前、天野田は言っていた。

 体力に個人差があるのと同じく、呪法にも力量の個人差というものがある、と。

呪力(じゅりょく)と呼ばれるものを使って術を使う。

それが呪法だ。



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