羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》


 しかし、呪法というものは、行使する術によって、その呪力とやらの消費量が違う。

より強力な、また、より難しい術を使おうとするほど、呪力の消費量が大きいのだそうだ。

体力と違い、生まれつき強弱が決まっているという呪力は、努力では向上しない。

だから、呪力の弱いものは、大抵が強い班員の補佐に回され、補佐官向きの術を叩き込まれる。

 また、こういった下層の班員は、手当程度の処置も任されるらしい。


 しかし、彼女の様子から察するに、どうやら治癒という呪法の行使は、彼女にとって難しいようだ。


「すみません……」


 青木の年齢は定かではない。

榊より年上でも年下でもおかしくはない。

しかし、青木があまりにも畏れかしこまっているので、嫌でも彼女が格下に見えてしまう。

 そんなことを思いつつ、治療室の棚を漁っていた酒童は、「みっけ」と呟き、数枚の札を取り出した。


「なぁ、これって使える?」


 しゅんと肩を落としていた青木に、酒童は札を提示した。


「ああ……。
これ、作り置きされてた札ですね」


 札を手に取り、青木は悲観的な表情を少しばかり和らげて言った。


「治療用の術が施されたもんだろ。
まだ使えるかな?」

「んー……。
だいぶ使われてないみたいですし、それ、出血患者用なんです」

「あれっ?」


 酒童は間の抜けた声を上げる。


「打撲用って、なかったっけ?」

「それは……。
私も見たことがないですから、たぶん、ないと思います。
骨折した人がいる場合は、術が使える人を呼ぶようにと言われてるんですが……」


 青木は困り果て、頬を掻く。
 
  




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