羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》





 いつものように、全班の討伐が完了すると、食堂にも似た大部屋でお開きが行われた。

 茨は持参してきた生物学のノートを広げ、回答不可の問題をシャープペンシルの先で示した。


「ここの、遺伝子とかいうのが、いまいちよくわからないんですよ。
RNAとか、構造とか」

「ふぅん、ここね」


 茨の隣に座った天野田が、机に肘をついて、だだくさに板書されたノートを眺める。


「君が描いた図には、四角が塩基、五角形が糖であるリボース、楕円形がリン酸どあるね」

「うん」

「で、これが1本の線で繋がっている。
リボースと塩基とリン酸が結合した単位を、ヌクレオチドというんだ。
要は、ヌクレオチドはこの三つで構成されている。
RNAは、この構造でできている。
だから、RNAが出てきたら、それを作る構成単位はヌクレオチド。
そしてヌクレオチドは、塩基とリボースとリン酸でできている。
まあこんな風に覚えればいい」


 塩基+リボース+リン酸=ヌクレオチド

 RNAはヌクレオチドが連なった構造


 赤いペンで茨のノートに単純な式で表し、天野田は長々と、テストにすると3点か6点くらいにしかならないことを教えた。

 それでも、生物学の授業を半分ほど寝て過ごしていた茨には、ありがたい授業だった。


「すごいや。
これで次のテストは、赤点すれすれを免れそうだなぁ」

「いつも赤点すれすれなわけ?」

「国語以外は」


 茨は苦笑いをする。


「夜に頑張ったぶん、どうしても昼に寝ちゃうんだよなあ。
困ったことに」


 気持ちの良い昼寝の瞬間を思い起こしたからなのか、茨は大きなあくびをした。


「天野田さんは、そういうのって、あんまりなかったんだろうな」


 自分と天野田を比較するような独り言に、天野田は僅かに肩を跳ね上げ、反応した。


「……どうして、そう思う?」

「だって、天野田さんは勉強できるし。
たぶん、俺と同い年くらいの頃から、優秀だったんだろうなと思って。
凄く頑張って、勉強したんだな」


 羨望のようなものが、天野田に降り注がれた。

天野田はしばらく呆然としていたが、やがて、ふと首の付け根を撫でて微笑んだ。







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