羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
1
ハッとして。
酒童は目を覚ます。
その眼には、アパートの天井が映った。
(夢……)
夢とは基本的に、あまり記憶に残らない。
……残らないはずだが、酒童が思い出そうとすると、あの凄惨な情景が、意地が悪いほど鮮明に浮かんだ。
しかし、夢は夢だ。
夢で良かった。
「はあ……」
酒童は片目を手で覆うと、上体を起こす。
自分は昨日、いつものように帰ってきて、そのまま布団に入って寝たのだ。
「陽頼?」
弱々しい声で呼んでみたが、陽頼は横の布団にはいなかった。
酒童は携帯電話の画面を見てみる。
時刻は既に10時半を過ぎていた。
寝すぎてしまったらしい。
陽頼はもう起きているに違いないだろう。
むくりと起床し、酒童は浴室まで足を運ぶ。
シャワーの音がしないのを確認し、洗面所をちらりと覗いた。
「あ、おはよ」
鏡に向かって髪を編み込んでいた陽頼は、酒童を見るや、もともと明るそうな顔をさらに明るくした。
「おはよう」
「ねえ、今日のことなんだけど、何時に出てく?」
陽頼はやけに上機嫌だ。
何時に出て行く、とは、どういうことだろうか。
小首を捻っている酒童に、むっ、と陽頼は頬を膨らました。