羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
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中央の街は、やはり人が多く喧噪である。
手前の商店街のような昭和風の空気は消え去り、上品なカフェだとか、ちゃらちゃらとした服が販売されている店だとか、とにかく都会風の店が立ち並んでいる。
今日は日曜日なのもあって、普段以上に人が多い。
酒童は母鴨について歩く小鴨のように、陽頼の後ろでちょこちょこと歩いた。
女性というのは服が好きなようで、陽頼は大はしゃぎで服を見て回っていた。
体温調節と着飾りと仮装だけが目的の服に、なぜそうも惹きつけられるのだろうか。
酒童には不思議で仕方がなかったが、可愛らしいデザインの服を着て鏡を覗き込む陽頼は、いつも以上に女の子らしいと思った。
なるほど、無料で服の試着を楽しめるというのも、服屋の醍醐味らしい。
「ねえ、ずーっと思ってたんだけど」
襞の多い黒色の服を纏ったまま、陽頼は酒童に言った。
「嶺子くんは、ジャージ以外は買わないの?」
そういう陽頼こそ、あれだけ試着した割に、買い物カゴには一着も服が入っていない。
しかし、陽頼が言うのもわからないことはなかった。
酒童は買い物カゴに、黒のジャージを一着しかいれていない。
というのも、かれこれ数年もの間、生活を共にしてきたジャージのひとつが、腰を括る紐が紛失して使い物にならなくなってしまったからである。
だから、ついでに代わりのジャージを買いにきたのだ。
「俺、あんまり服には興味ないから」
「だって嶺子くんて、外出用のズボン、今着てるジーパンしか持ってないし」
「そりゃ、そうだけど……」
酒童は、メンズファッションのコーナーにある、やたらボタンやポケットの多い服、ぶかぶかのズボンに一瞥をくれる。
確かにモデルが着ているような服だが、あんなおしゃれなものが自分に似合うとは、酒童は思えない。
着てみたとしても、服のほうに華がありすぎるだろう。