羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
それは笑えるという意味での、面白い、なのだろうか。
導かれるというよりは、半ば引きずられる形で、酒童は陽頼の後を追う。
「んー」
手当たり次第にハンガーにかかった服を取り出しては、酒童の前に翳す。
「体のラインがはっきりしてるのもいいけど、ぶかぶかも可愛いしなぁ」
「か、可愛い?」
酒童は耳を疑う。
なにしろ、見ての通りの不良顔で、高校生の頃から、ルックスだけで相手に悪い印象を植え付けがちだった。
そんな自分が、生まれて初めて「可愛い」と言われたのし、自分でも強面だと思っていたのだから、衝撃を隠せない。
いや、陽頼も昔から、核実験で蘇った恐竜を「キュート」というくらいなのだから、彼女の感覚でなら酒童が可愛く見えても、おかしくはないのだろうが。
「じゃーあ、これきてみて?」
「ああ……」
言われるがままに、柔らかい生地のチェックのシャツに、なんの用途があるのかポケットの多すぎるズボンを手に、試着室に上がる。
(女って、男の服装にも通じてんのか)
女ってすごい。
酒童は心底から感心しながら、服を着替えて行く。
そして試着が完了すると、そろそろとカーテンの隙間から目を覗かせる。
「着替えた?」
陽頼が酒童を見上げながら言ってくる。
「似合ってるかどうかが、ものすごく心配なんだが」
「大丈夫だよ。
もし変でも、赤の他人の服装なんか、誰もじろじろ見たりしないし」