羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》


 口か顔を押さえているらしく、手で口を塞いだような声だ。

 カーテンを開けて出てきた酒童の前には、つぶらな眼を光らせて、なにやら意気込んだ表情の陽頼がいた。


「……怖がらせた?」


 控えめに訊く酒童に対し、陽頼は答えない。

 するといきなり、陽頼はがっちりとその手を握り、


「それ、買おう」と、力強く言った。


「え、買うのか?」

「買った方がいい、っていうか、買って!私おごるから!」


 断固として譲らない態勢の陽頼に、酒童は困った顔で首を捻る。

 怖かったのではなかったのか?

 疑問符が浮かんでやまないが、とにかく、陽頼におごらせる訳にはいかない。


「いや、自分で買う」


 そういいながら、酒童はカゴをもってレジに走ろうとする陽頼を引き止める。



『安く、可愛く、カッコ良く。
それが《シメムラ》』


 そう言われるだけあって、上下合わせたメンズの服は安価だった。






< 139 / 405 >

この作品をシェア

pagetop