羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
ファミリーレストランは、昨日も来た。
朱尾と再開した時だ。
しかしその日と比べると、今日は人も多くて賑やかだ。
「なんか、思い出すなぁ」
しみじみと、陽頼がらしくないことを口にする。
小ぶりなドリアンを平らげて、生クリームにたっぷりと抹茶のソースがかかっていたはずのパフェの、残り僅かなアイスをつつきながら。
「思い出す?」
「はじめて、ここに2人できた時。
私が鼻のてっぺんにクリームつけたままにしてたら、嶺子くんが、
『保育園児みてぇ』みたいなこと言って、使ってないお手拭きで拭ってくれたの。
あれでね、一瞬だけ嶺子くんがお母さんに見えた」
そう言われてみれば、そんなことをした時があったかもしれない。
陽頼の幼げな性格は、今でも健在だが。
「少女漫画だと指で拭き取ったりするけど、お母さんはお手拭き使うよねー」
「そんなもんか?」
「うん」
白玉を口内で転がしながらうなづく陽頼を前に、酒童は、ふと遠い目で、トマトソースが分弾にかけられたパスタを眺めた。
(母さんねえ)
酒童は一度だけ、陽頼の両親を見たことがある。
2人とも娘によく似た温容で、いかにも人の良さそうな、悪くいえばお人好しそうな両親だった。
だが酒童は、実の両親の顔など知りもしなかった。
なので、お母さん、と言われても、あまりその言葉に対して親近感がわかないでいる。