羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》


 その声は、頼むから来るな、という酒童の願望に相反し、彼女らはとうとう右隣の席へと腰を下ろした。


「あたし何にしよっかな?」

「俺はもう決めた。スタミナ鉄板」

「やべー、茨っぽいー!」


 酒童はがちがちと震える首を、毫末ばかり右に向ける。

 俗にいうギャルや、目立たない顔立ちの人や、とにかく、共通点の少なそうな女子高生たちが5人ほど身を寄せ合い、メニュー表に集結している。

そんな少女たちの中で、1人だけ、ひとまわり体格が良く、顔も雄々しい、ズボン制服の女子高生がいる。

 酒童は耐えかねて、がたりと立ち上がった。


「どうしたの?」


 なにも知らない陽頼が、あっけらかんとして訊く。


「いや、ちょっと、トイレに……」


 ここで茨に気づかれたら大変だ。

 天野田の入れ知恵で、人前で嫁だの童貞だのと騒がれては、恥かしいことこのうえない。

だから情けないとは思いながらも、酒童はトイレに避難しようとした。

 が。


「あれっ、酒童さんじゃないですか」



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