羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
神様は意地悪だ。
それは、まさにこのことをいう。
後ろの女子高生たちは、「茨、知り合い?」と、着席したまま体をこちらに伸ばす。
「やっぱり酒童さんだ。
酒童さんもお昼ですか?」
茨は完全に、顔をあげた相手を酒童だと認識すると、上機嫌に尻尾を振った。
無垢に瞳をきらめかせ、柴犬のような顔で茨が歩み寄ってくる。
酒童は頬が引きつった。
「い、茨……。
お前、どうしてここに」
「今日、友達と遊ぶ約束してたんですよ。
午前中に散々遊んで、今は昼飯です」
誇らしげに鼻息を吹く茨の背後からは、
「昼飯て……!
茨ー、それランチっていわない?」
と、メイク濃い女子高生の1人が噴き出す。
彼女は見た目はきついが、「飯は飯じゃね?」と、とぼけてみせる茨の様子からして、性根の悪い人ではないらしい。
茨は、そういう人間には懐かない。
「ところで、酒童さん1人ですか?」
「いや……その」
「ん?」
そこで、茨は立ち上がった酒童の席の向かい、陽頼がいる方に視線をやった。
当然、そこには何が起こっているのかなど分かっているはずもなく、ん?と茨に鸚鵡返しをする陽頼がいた。
「……酒童さん」
振り返った茨は、にやついていた。
「あの人が噂のお嫁さんですか?」
「それも天野田のデマか?
まだ結婚してねえってば」
訂正する酒童を無視し、茨が窓側の席に腰をかけ、隣の陽頼に声をかけた。
「こんにちは。
俺、酒童さんの部下の茨っていいます。
いつもお世話になってます」
「あ、どうも……」
いきなり頭を下げられて、さすがの陽頼も目をぱちくりとさせている。
「ねえ、誰ー?その人」
「男のほうは知り合い。
俺の尊敬する上司なんだ」
「男のほう?」
マスカラとアイラインが施されたり、眼鏡をしていたり、じつに様々な目が、一斉に酒童を射る。