羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
体を小さくして、彼女らの会話を見守っていた酒童だが、思えば懐かしい光景だった。
陽頼は、いつもああだった。
少し話しただけで、誰彼構わず打ち解け、最終的には友達になっている。
男女問わずに友好的な接し方だったから、周りには、知らず知らずのうちに人が集まっていた。
自分とは、真逆に。
だが客観的に、騒がしいまでに楽しく言葉を交わす姿を目にしていた酒童は、自然と、不思議と心穏やかになった。
なにしろ週5日は、西洋妖怪の血を浴びるような殺伐とした日々を過ごしているのだから、こうした“普通”の日常を目の当たりにすると、自分は平和な時間を過ごしているのだと実感できた。
肩身の狭い思いはしたが、こうした懐かしい風景を目にできて、酒童は満足して、残り少ないパスタを口に含んだ。
「嶺子くん?」
麺を咀嚼している酒童に、おしゃべりを終えたのか、陽頼が話しかける。
「ん?」
「ちょっといい?」
「んう……」
まだ形の残っているパスタを噛みながら、酒童は首を縦に振る。
そして、ごっくん、と飲み込んだ。
「なんかあったか?」
「あのね、ちょっとこのあと行きたいところがあって……。
ここ出たら、それに付き合ってくれない?」
陽頼が眉を下げて、酒童に合掌する。
別に訊かなくても、陽頼が行きたい場所にならついて行くつもりだ。
「んん。
俺は行きたいとこなんかないしな。
ついてく」
俺1人帰るわけにもいかねえし。
酒童はぐっと水を飲み干し、丁寧にフォークを置く。
よく見れは、ガールズトークを終えたと思わしき女子高生たちが、温かい視線をこちらに送っている。
しかも茨に至っては、柄にもなさそうなウィンクを何度もしている。
酒童は真っ赤になって、頭上に蒸気を立ち上らせた。