羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》




―――わあぁぁぁぁぁ……



 と。



 大衆の悲鳴と共に、無数の人間が、この巨大なショッピングモールの中に押し寄せてくる音が、波を立てて酒童の耳に届いた。


(なんだ)


 明らかな恐怖心を孕んだ悲鳴に、酒童は瞠目する。


臓器が、ひやりと熱を失うのを感じた。


「っ……陽頼っ」


 酒童は咄嗟に、陽頼の手首を掴んだ。


「え?どうしたの?」


 突然の出来事に驚き、陽頼はぽかんとしている。

 そんな様子の彼女が目に映る一方で、後ろから遠巻きに響き渡る声が、酒童を焦らせた。


「……ちょっと、外に出てくる」

「待って、どこいくの?」

「ちょっとだけだから。
……絶対に、こっから出るな」


 酒童は少しだけ声の調子を落とし、陽頼の肩に手をおいて聞かせた。

 何かがあった。
 
 さすがの陽頼も酒童の顔色から察したようで、彼女は口をつぐんだ。


「―――すぐ戻るから」


 酒童はそう言って踵を返し、声のする、大通りに面した出入り口へと駆けた。

 ただ常人と同じように駆けるのではない。

 何が起こったのかは定かではないが、奥へと人が押し寄せてくるのがわかった。

 人にぶつかっていては、出入り口には到底たどり着けない。

 だから酒童は、通路に沿って施された、長方形の手すりの上を走った。

並の人間では、まず弾き出すことのできない速さで。

 人が押し寄せてくるのは、自分たちが入ってきた場所だ。

あそこのすぐ横には大きなシャッター口があり、今日は特別イベントで、マグロの解体ショーが行われている。


 いくら自動ドアでも、この地響きにも似た足音が出るほどの人数を、一気に入れることはできない。

 入り口が狭いし、入り切らない。

だからおそらく、あのトラックが数台ならんでも余裕がある、あの巨大なシャッター口から、人が押し寄せたのだろう。





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