羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
「酒童さん!」
軽快な足音と共に、茨がこちらに走ってくる。
「茨」
「酒童さん、こりゃどういうことですか」
酒童の横についた茨は、両手に包丁を手にしていた。
おそらく、先ほどまでファミリーレストランにいて、この騒ぎを聞きつけ、厨房から持ってきたのだろう。
人っ子ひとりとしていない、閑散とした道路では、彼らの姿は非常に目立った。
「どういうことって、そりゃ俺が聞きてえよ」
酒童は嘆かんばかりに語調を落とした。
殴り飛ばされた魚が、にゅるり、と目玉を動かす。
その眼はなんだか、やけに煌めいている。
あたかも、餌が1匹増えた、と歓喜の声を上げるように。
「西洋妖怪は、昼には出ないっしょ。
そう習いましたよ」
「俺だって頭こんがらがりそうなんだよ。
まさか着ぐるみなんてわけでもなさそうだしな」
「突然変異、ってやつですかね」
「だと、嫌だな」
酒童と茨は一見すると呑気な会話をしているようでもあるが、双方とも、頭の中は混乱していた。