羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
西洋妖怪は日中に出現することはない。
そんな常識が覆されたのだ。
特に西洋妖怪と関わりの深い羅刹にしてみれば、日本列島に隕石が落下したような衝撃である。
いまこの場にいる西洋妖怪は、卵を合わせて4体だ。
成体か幼体かは不明だが、とにかく俊敏で、並の西洋妖怪と同じく危険性が高いのは見て取れる。
運動性能では、羅刹も西洋妖怪に引けを取らない。
だから力では負け劣らぬ自信が、酒童にはあった。
それよりも、問題は。
(マグロの包丁で、やれんのかな)
なにしろ、酒童が手にしているのは日本刀ではない。
刃渡りこそあれど、所詮は包丁だ。
斬れ味も遥かに悪いだろうし、村雨丸ほど頑強な鱗を容易く斬ることはできないだろう。
むしろ刃こぼれするかもしれない。
マグロくらいの硬さなら、ここまで案ずることもなかったのだろうが。
「―――茨よ」
酒童は魚が起き上がるのを見つめたまま、茨に自身の携帯電話を投げ渡した。
「それで、班長に電話かけてくれ。
都心部、ショッピングモール前の大通りに西洋妖怪が出現したって」
「敵は、あれ1匹だけですか?」
「たぶんな」
「……了解しました、包丁折られないでくださいよ」
茨は酒童に背を向けると、跳躍して電灯へと飛び移った。