羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》


(―――早めに片付けるか)


 酒童は長包丁を構えた。

 魚がこちらを向く前に、爪先でアスファルトの地面を蹴る。

照りつける秋の日差しを弾き、やや血が付着した包丁が紅に光る。

 魚との間合いを詰め、完全にその身が自分の刃圏に入ると、酒童は斜め右下に包丁を振った。

 斬ッ、と魚の太腿から下が、胴体から切り離される。

 どうやら、人間の肉体の部分は、鱗が生えている部分ほど丈夫ではないらしい。

 両脚の自由を奪われた魚が、赤黒い血を吹き出しながら地べたを這う。

 酒童は隙を作らない。

素早く魚の背を踏みつけ、大きく縦に振りかぶった。


 斬ッ―――と。


 斧が降ろされたような斬撃に、ぱきぱきっ、と鱗が割れる音がする。

魚の生首が地面に転がった。


(……)


 酒童は背後を睨みつける。

 不気味な粘液が滴る音に、殻の割れる音が重なる。

 遅かった。

 次は3体も同時に孵化したのだ。

とどのつまり、酒童が一気に不利な状況に陥ったも同然ということである。

 いくら羅刹でも、3体をひとりで相手にするのは骨が折れる。




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