羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》



(不利だな)


 そう察した酒童は、いったん退却するように電灯に飛び乗り、そこから低いビルの屋上へと移った。


「しいいぃぃぃぃ」


 アメリカのパニック映画に出てきそうな怪物だ。

 酒童は粘液にまみれた魚たちを見て、心底からそう感じる。

もっとも、いまでは「モンスター」などというものは、日本人にとってはあまりに身近でかつ危険なものであるため、
不謹慎だということで、全国のビデオショップでのパニック映画の販売は禁止されたのだが。

酒童が見たものは、桃山がコレクションにしていたモンスター映画の一端だ。


「酒童くん」


 呼ばれて酒童は、はっと我に返る。

 茨の声ではない。

 振り返った先には、天野田が軽く肩を上下させていた。

しかもありがたいことに、彼は1本の刀を携えている。


「どうしたんだ、刀なんか持って」

「どうしたんだ?
それはこっちの台詞だよ。
これはどういうことだい」

「俺も知らねえよ。
知らねえから、いまこうして困ってるんだろ」


 酒童が返すと、天野田は面倒臭そうに髪をかき乱す。




< 158 / 405 >

この作品をシェア

pagetop