羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
「とりあえず、ほら」
天野田はベルトから刀を鞘ごと抜くや、酒童に手渡した。
「お前、これ……」
「ちょうど拠点で暇を潰していたばかりでね。
帰りに遊んで行こうかと思ってたんだけど、この騒ぎさ」
なるほどそういうことか。
酒童は天野田の刀を受け取ると、「研いで返すわ」とだけ言い残し、そのままビルを駆け下りようとした。
しかし、それは刀を手渡した天野田によって阻止された。
「待った。早まるんじゃない」
不意に手首を掴まれて、勢い余った酒童は前のめりになる。
「なんだ」
「さっき、班長率いる羅刹隊員のひとりから連絡があってね。
私や君が住んでいる方の街に、西洋妖怪が現れた。
すぐに行くから、戦闘の前に街の人々の避難を優先しろ、だとさ」
どうやら、茨からの電話を受けた班長たちが、さっそく行動に移ったらしい。
人々の避難を最優先に、と言われたが、その人々なら西洋妖怪を目にした途端に、近傍の店へと避難した。
悪くいえば、逃げ足が早い、ということになるが、酒童からしてみれば、パニック状態になりながらも、早急に避難してくれたので助かった。
それにアスファルトに人の血が一滴も飛んでいないところから察するに、犠牲者はひとりもいないようだ。
「じゃあ、人がいない場合は?」
「敵の数によっては、安全な場所で待機」
「待機か……」
酒童は道をうろつく西洋妖怪を見下ろしながら、それは良かった、と胸を撫で下ろす一方で、どこかがっかりとした。
なぜか。