羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
彼は茨が訓練生の時代から、酒童は伝説的な成績を誇るとして有名な卒業生だった。
訓練場第15地区において、その有能さで彼に勝ったものはいない。
『あれほどの逸材は、もう二度と現れないかもしれない』
『どこの拠点に遣っても恥ずかしくないだろう』
『我が第15地区の誇りだ』
教官たちから大袈裟なくらい高く評価されるほどで、訓練生たちもまた、そんな完璧な“先輩”に憧れを抱いた。
自分もいつか、ああなりたい。
せめて、その背中に近づく程度でも。
茨もまた、そう願った者のひとりだ。
だからこそ、酒童のいる拠点へと派遣されて、しかも同じ班に入れてもらえて、会話までできるようになって、茨は内心、死にそうなほどに幸せだった。
(何ヶ月、あの人の横で戦ってきたんだ)
その瞬間、茨は自分を激しく叱咤した。
そうとも。
よく考えれば、自分はあの酒童嶺子の横で、ずっと戦ってきたのではないか。
きっと強くなっている、はずだ。
茨は自己暗示をかける。
不安に満ちた子供の瞳を見据えながら。