羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
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茨、と叫んだ次の瞬間には、酒童は動き出していた。
さすがに仲間の危機ということなだけあって、天野田も目を見開いて、酒童と同時に駆けつける。
「祓(ふっ)!」
どこからともなく取り出した紙切れ―――呪符を指に挟むや、天野田はそれを3つ、1体の魚に向けて放った。
じゅう、と肉の焼ける音がたつと、
「きぃやああああ」
魚が痛みゆえなのか甲高く鳴いた。
呪法にも精通している天野田なだけあって、ベテランの呪法班員なみに呪術の知識と技量がある。
「伏徐!」
魚の首を囲うようにして貼られた呪符は、灼熱の熱気を発していたが、天野田の合図と共に、それらは形を変えた。
じょきり、と。
呪符が繋がり、それらが一体と化してひとつの白い輪になった時には、魚の首はもぎ取られていた。
一方で天野田の刀を抜きはなった酒童は、片方の魚に斬りかかった。
ぱっくりと大口を開けていた魚の背中めがけて、酒童の鮮やかな斬撃が繰り出される。
ざくり、
ざくり、と。
やはり刀のほうが、包丁よりもずっと斬れ味が良い。
斧を降るように力をいれなくても、普段通りの扱いで鱗が切れる。
ばつ印を刻まれた魚が、巨大な目玉を酒童に向ける。
しかしその時、酒童は既に、丸腰の柔らかそうな喉仏へと刃先を伸ばした。
斬、と。
地面に転がり落ちた魚の首に気づき、最後の1体が歯を剥いて、酒童に喰らいつかんばかりに走る。
しかし酒童は焦らない。
全く無防備に首を晒し、こちらに腕を伸ばして走ってくる怪物を迎え撃つ。
斬、と血飛沫が上がった頃には。
野球選手がボールを打ったかのように、軽々と魚の生首が宙を舞っていた。