羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
その時、茨は子供を背に庇いつつ、ただ呆然としていた。
“技は酒童、智は天野田”
訓練生はみな、そのどちらの名も知っている。
体育的な部門でいえば群を抜いて酒童が首席だったが、知識と頭脳においては、常に天野田が先頭に立っていたということで有名だ。
そんな2人が、いま、こうして眼前で、しかもタッグで討伐を行ったのだ。
すげえ。
茨は感嘆しそうになった。
(おっと、いけねえ)
茨は我に返ると、安堵して啜り泣きを始めた子供の背を撫でてやる。
「大丈夫、大丈夫だ。
もう西洋妖怪どもはいなくなったぞ」
しゃくりあげる子供を見て、茨は無理もないと思う。
自分だって、西洋妖怪はいまでも怖い。
それでも戦ってこられたのは、一人前になるまで手本となってくれる先輩たちがいたからであって、決して、酒童たちのように西洋妖怪が恐くないのではない。
「ママあ……」
混乱しているのか無我夢中なのか、子供は自然と母を呼んだ。
どうやら母親ときていたらしい。
「そうか、じゃあ母ちゃんのとこに行こうな」
茨は先ほどの戦慄を顔から消し去ると、子供をおぶって表の道にでた。
茨が子供を背負って出てきたのを確認すると、酒童は腕をだらんと垂らし、安心して大きく息をついた。
「よかった、いば……」
「茨、大丈夫だった?」
珍しく、天野田のほうが酒童の言葉を遮る。
「なんとか。酒童さんたちのおかげで」
「よかった。
心の臓が破裂するかと思ったよ」
天野田は心底からほっとしたのか、胸を撫で下ろす。