羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
「……酒童君さ、まさかと思うけど、私がなんでも知ってると思ってる?」
天野田が、半ば軽蔑を込めた風に、眉を上に捻った。
「……悪い。思ってた」
「勘弁してくれ。
私の専門はあくまで呪法だよ。
西洋妖怪の生態になんか、興味は、ないね」
天野田は断言すると、酒童から自分の刀をもぎ取った。
「いま私らの身に起こったことは、たぶん、だれにもわからない。
だったら、専門家が真相を見つけ出してくれるまで、ひたすら待つのが適切というものだよ」
うつむく酒童に、天野田はもっともらしいことを言ってみせる。
「待たなきゃ、ダメなのかな」
ぽつりと、茨がそう声を漏らした。
「ここに精鋭が2人も居合わせたのは、不幸中の幸いだ。
けど、また今みたいなことがあった時、こんなに好条件で戦えるかどうかは、わからない……」
確かにそうだ。
もしこの日に、陽頼がここに来ようと言い出さなかったら、きっと酒童は今頃、部屋の中で睡眠をとっていたに違いない。
天野田はひどく困った表情になった。
前からそうだったが、なぜか天野田は、茨だけに対しては強い態度を取れない。
しかしやはり天野田は、最後には自分の意見を貫き、
「原因を探す手掛かりがあるのなら、探すことはできるかもしれない。
けれど、その原因を探るのは、私らには困難なんだ」
と、酒童にかけた言葉よりも柔な語調で言った。