羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
九:人狼
*
この街の何処かには、今は廃墟と化した、ささやかなほどに小さな文化ホールがある。
その建物の中からは、
べん、
べべん、と。
琵琶か三味線か。
とにかく和楽器の旋律が、しんしんとこだましていた。
“ ……あや、懐かしき、大江山。
鬼の子として世に生まれ。
悪しきは得と教えられ。
一人前の鬼となり。
ついには俺の、右に出るものなし。
我が名は、酒呑童子。
女は攫ひて夜に回し、昼にはとっくに胃の中さ。
金の価値など知りゃせんな。
俺の後ろにゃ、多くの鬼さ。
百鬼羅刹の支配者よ。
ところがどうした、今の世じゃ。
酒呑童子も、ただの優男か。
人間ゴッコも、そこまでぞ。
人のおなごなど、喰うてしまえ。
お前こそ、真の鬼の子じゃ。
人でも殺せば目覚めよう。
己が鬼だということに。
のう、酒呑童子よ。
外の怪なぞ、殺し尽くしてしまえば良いさ”
ピアノのオルガンに乗った、20代後半ばかりの男が、大きな琵琶を腕に抱き、乱暴に引き鳴らしながら歌っていた。
「お前は、もう、人ではないのさ」