羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
1
朱尾は鉄砲に弾を入れつつ、縦長に割かれた干し肉を齧っていた。
やけに黒々とした肉であった。
「飯、食ってきてねえの?」
酒童が問いかけると、朱尾はこくんとうなずいた。
「先輩に携帯で呼ばれるまで、家で寝転がってたんで」
弾を詰め終えて、朱尾は炯々と光る満月を仰いだ。
酒童は疲れ切った足を休ませるように、その場に腰を下ろす。
酒童たちは昼下がりから、県庁所在地である隣町の拠点へと向かい、班長と共に昼の事件について報告した。
それから面倒な報告書を書く羽目になり、夕方より少し前に隣町から帰ってきたのだ。
コンビニの五目にぎりをひとつに食べただけだが、もう精神的な疲労で、空腹感を感じなかった。
「なんかそっちは、昼に大変だったみたいっすね」
前代未聞の異常事態だというのに、朱尾の語調はずいぶんと素っ気ない。
今日の天気予報は晴れだったのに、雨が降ってきた。
そう口にする風だった。
「昼から、ずっと大変だった」
酒童はため息を零した。